横田英史の読書コーナー
21世紀の資本
トマ・ピケティ著、山形浩生・訳、守岡桜・訳、森本正史・訳、みすず書房
2015.4.8 1:09 pm
言わずと知れたベストセラー。6000円の専門書がこれほど売れるとは正直なところ驚きである。これほどのベストセラーとなると、職業柄、とにかく読まずにはいられない。少し遅くなったが、評者も700ページ超の大著に挑戦した。読後感は「読みやすい」である。説明が実に丁寧で翻訳が優れていることもあり、経済学の初心者でもどんどん読み進むことができる。名翻訳家・山形浩生を採用したところがポイントだろう。大学の先生の翻訳だと、こうは読みやすくならない。途中で投げ出したかもしれない。豊富なグラフや表で説得力を持たせているのもポイントだ。しかも引用と図の配置がズレないように配慮しており、とても読みやすい。持ち運びが不便だし、内容的にも万人向けではないが、話題に取り残されない意味で読んで損はない書である。
本書を代表するのが不等式「r>g」。資本収益率(r)は経済成長率(g)よりも大きいことを意味し、富の集中が起こるとする。資本収益とは、配当や利息といった資本が生み出す収入である。一方の経済成長は、労働による給与によって生まれる。過去200年以上のデータから「r>g」が導き出され、富は資本家に蓄積されたと筆者は主張する。しかも資本収益率(r)と経済成長率(g)の差は大きく、資本家の富は労働者よりも急激に貯まり格差が拡大する。しかも資本家の富は相続によって受け継がれ、そうでない労働者の資産との差はますまず開く。こうした格差を放置すると民主主義は危機に陥る。この格差を是正するには、累進課税の富裕税の導入が不可欠と筆者は主張する。
本書で圧倒されるのはデータの豊富さである。富の分配をめぐる知的、政治的な論争は、昔から大量の思い込みと事実の欠如に基づいたものになっているとの反省から、筆者は3世紀にわたるデータと20カ国以上のデータを基に議論を進める。定量化への執念は驚くばかりである。ときおり出てくる経済学者への批判も興味深い。筆者はこう語る。経済学者たちはしばしば、自分たちの内輪でしか興味を持たれないような、どうでもいい数学問題にうつつをぬかす。数学への偏執狂ぶりは、科学っぽくみせるにはお手軽な方法だが、我々の世界が必要とする複雑な問題の回答からは離れている、と。
書籍情報
21世紀の資本
トマ・ピケティ著、山形浩生・訳、守岡桜・訳、森本正史・訳、みすず書房、p.728ページ、¥5940