横田英史の読書コーナー
沖縄返還と通貨パニック
川平成雄、吉川弘文館
2015.4.24 2:35 pm
1970年8月のニクソンショックから1971年5月の沖縄返還にいたる9カ月を克明に追った歴史書。沖縄の戦後を知る上で貴重な情報を盛り込んでいる。返還時に右側通行から左側通行に変更されたことは知っていたが、住民の手持ちのドルを確認する作業が行われたことは寡聞にして知らなかった。琉球大学教授の筆者は琉球政府と日本政府、沖縄の米国民政府の動きを詳細に明らかにしている。沖縄から見た日本国政府や本土という筆者の視点は徹底しており、若干戸惑うところもあるが勉強になる。この書評で先日取り上げた「沖縄の不都合な真実」と併せて読むとバランスがとれるかもしれない。
「ドルと金との交換を禁止」したニクソンショックから話は始まる。円ドル相場はそれまで1ドル360円に固定されていたが、金との交換禁止によって円が急上昇。沖縄県民が手にしていたドルの価値が大きく下がった。手持ちの現金や預貯金・資産が大きく目減りするとともに、物価が急上昇した。この状況に琉球政府と日本政府がとった対策が「ドル確認作業」である。
まず沖縄で流通しているドルの量を確認。手持ちの紙幣については、1枚1枚に証書を貼る。この証書が貼られたドル紙幣に対して、ドルから円への通貨交換時に55円を補填する。預貯金を把握するために、屋良朝苗 琉球政府行政主席の緊急指令権で、米国系銀行を含む銀行、信用組合、農林漁業中央金庫、郵便局の業務停止を命じる。沖縄の経済活動を停止する荒業である。しかも沖縄を統治していた米国民政府を蚊帳の外に置き、極秘裏に作戦は練られ、極秘のうちに実行に移されたのだ。自衛隊と警察を狩り出して、日本通貨を本土から沖縄に搬送した大作戦の話も興味深い。何ともスリリングな逸話の数々である。
書籍情報
沖縄返還と通貨パニック
川平成雄、吉川弘文館、p.206、¥2268
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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