横田英史の読書コーナー
地方消滅の罠:「増田レポート」と人口減少社会の正体
山下祐介、ちくま新書
2015.5.7 9:42 am
この書評で取り上げた増田寛也編著「地方消滅」への反論を展開した書。勢い込んで議論をふっかける著者の熱意は伝わってくるものの、議論が上滑りして説得力に乏しいのは残念である。分析ではなく感想に終始した感があり、データをふんだんに使って議論を展開する「地方消滅」に、著者の意気込みほどには対抗できていない。著者は、この書評で取り上げ高く評価した「限界集落の真実」でミクロな議論を展開した社会学者。本書でも得意のミクロな視点で反論を試みるが必ずしも成功していない。ただし、いろいろな議論を知るという意味で、「地方消滅」に関心がある方にはお薦めできる。
著者は、「地方消滅」が展開する「選択と集中」「2040年までに全国の市町村の半数が消滅する」といった議論はためにするものだと主張する。地方を消滅させようとしている悪意が隠れており、鵜呑みにしてはいけないと断じる。主張は興味深いが、学者にありがちな抽象的な内容なので思いが伝わってこない。特に「地方消滅」への反論が、ほとんど「かもしれない」「可能性がある」「間違いないようだ」「思われる」「おそらく」といった推量や、「ふるさと回帰」「田園回帰」「経済の原理から共生の原理へ」といった情緒に訴える主張に頼っているのは何とも惜しい。
書籍情報
地方消滅の罠:「増田レポート」と人口減少社会の正体
山下祐介、ちくま新書、p.301、¥972
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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