横田英史の読書コーナー
放射線被曝の理科・社会
児玉一八、清水修二、野口邦和、かもがわ出版
2015.5.13 9:18 pm
福島原発事故による放射線被曝(特に低線量被曝)を「科学的に正しく怖がる」ことを目的に生物学者と放射線防護学者、経済学者が共同執筆した啓蒙書。著者たちのスタンスは反原発に置くものの、健康被害と原発の是非とは切り離して客観的・科学的に論じなければならないというのも。本書では科学的に「分かっていること」と「分かっていないこと」を明確に分け解説している。データ重視のスタンスは正しいと思うし、元エンジニアとしては共感できるところが多い。。原発推進派、反原発派を問わず一読に値する良書である。大きく言うと「100%安全ではないが、巷間言われているほど心配する必要はない」ということになる。
第1章では低線量被曝をめぐる論争を検証し、「分かっていること」と「分かっていないこと」について解説を加える。内部被曝と外部被曝で損傷した細胞(DNA)の数や損傷の度合いに差はないという。第2章と第3章では、福島の食品の安全性と福島に住むことの是非を扱う。前者では食品の検査体制と検査結果を紹介する。福島は人が住める場所なのかの論争については、除染の方法と効果を明らかにしている。焦点を当てるのは『美味しんぼ』。福島を訪れた主人公が鼻血を出す場面が論争を呼んだが、著者はデータに基づいて「被爆が原因で鼻血は出ない」と断言する。
第4章では福島の未来に言及する。広島・長崎の被爆者の健康調査で、被曝による遺伝的な障害は確認されていないという結論が出ている。明確な根拠もなく遺伝的な影響を口にする世の「識者」は、自らの言動のもつ影響と責任を自覚しているのだろうかと問う。第5章では原発住民運動と放射線問題を扱う。
書籍情報
放射線被曝の理科・社会
児玉一八、清水修二、野口邦和、かもがわ出版、p.192、¥2160
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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