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横田英史の読書コーナー

(歴史文化ライブラリー)帝国日本の技術者たち

沢井実、吉川弘文館

2015.6.13  10:00 am

 戦時における技術者の増強施策や技術者のキャリア形成を追うとともに、そうした技術者たちの戦後の歩みをたどった書。学校名や人名の羅列が続く前半部分は、資料性は高いもののエンタテイメント性が皆無である。目的を持っていないと、読み進むのが辛いかもしれない。後半は復員してきた科学者たちが戦後日本でどのように活躍したかを明らかにしており、が然面白くなる。「歴史文化ライブラリー」というシリーズ物の1冊という制約は認めるものの、無味乾燥な前半部は惜しい気がする。
 前半では、第2次世界大戦前後における満鉄、鉄道技術研究所、鉄道大臣官房研究所で働いた鉄道技術者の話に焦点を当てるとともに、工業教育機関の整備拡充や朝鮮や満州といった植民地における技術者教育の状況を解説する。
 後半では、引き揚げてきた技術者が民間企業に就職し、戦後の復興に貢献した歴史を明らかにする。オリンパス光学工業や岡谷光学機械、キヤノン、日本工営などでの活躍を紹介している。「帝国日本の技術者たち」は、戦時中に軽視された生産技術、生産管理、工場管理の重要性を訴え、現場に根付かせていったという。もう一つのトピックは鉄道技術研究所から新幹線に繋がる鉄道技術者の流れである。新幹線の自動列車制御装置(ATC)などの自動化技術の開発をリードしたのは陸軍や技術本部出身者だったことを筆者は明らかにしている。

書籍情報

(歴史文化ライブラリー)帝国日本の技術者たち

沢井実、吉川弘文館、p.209、¥1836

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。