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横田英史の読書コーナー

人工知能は人間を超えるか ~ディープラーニングの先にあるもの~

松尾豊、角川EPUB選書

2015.6.29  11:45 am

 人工知能研究に長年携わってきた東大准教授が、人工知能の歴史を振り返るとともに今後を展望した書。人工知能の限界、何ができて何ができないかを歴史を踏まえ冷静に議論している。スティーブン・ホーキングやイーロン・マスク、ビル・ゲイツ、ビル・ジョイなどが懸念する「人工知能は人類を滅ぼすのではないか」にも歯切れよく答える。人工知能学会で編集委員長を務めたことがあるせいか、書き口は丁寧でとてもわかり易い。第3次ブームと言われる人工知能の研究現場で何が進んでいるのか、研究者はどのように感じているのかを知ることができる。組み込み業界の方々にぜひ読んでほしい良書である。

 人工知能の第1次ブームでわかったことは、難解な定理の証明とか、チェスで勝利するといった高度で専門的な内容はコンピュータにとって意外に簡単だった。しかし現実の問題の解決は難しく、人間の知能をコンピュータで実現することの奥深さを理解してブームは終わった。エキスパートシステムが喧伝されたのが第2次ブーム。第5世代コンピュータ・プロジェクトについて筆者は、「勝つために振る価値のあるサイコロだった。当時の資料を読むと、熱意が伝わってくる。今の日本に最も欠けている部分」とコメントする。

 そして第3次ブーム。ディープラーニングによってコンピュータは与えられたデータから概念(シニフィエ)を自ら獲得できるようになりつつある。「大量のデータを与え、そこからパターンを発見させる」といった場合、これまでは特徴量をどう設計するかは人間が考えていたが、機械が自ら特徴量を作り出すことができようになった。興味深いのは、行動を通じて特徴量を獲得できる(周辺とインタラクティブにやりとりできる)段階に達すれば、試行錯誤による創造性ということにつながるという見方である。

 一方で人工知能が人類を征服したり、人工知能を作り出したりする可能性は「現時点ではない」と断言する。「人間=知能+生命」であり、生命の話を抜きに人工知能が意思を持ち始めると危惧するのは滑稽だと語る。自らを保存したいという欲求、自らの複製を増やしたいという欲求が生まれて、初めて征服したいという意志に繋がるという。

書籍情報

人工知能は人間を超えるか ~ディープラーニングの先にあるもの~

松尾豊、角川EPUB選書、p.263、¥1512

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。