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横田英史の読書コーナー

なぜ人類のIQは上がり続けているのか?~人種、性別、老化と知能指数~

ジェームズ・R・フリン、水田賢政・訳、太田出版

2015.7.3  12:19 pm

 20世紀初頭から約100年にわたって、人間の知能指数「IQ」の平均値は上昇を続けているという。先進国を中心に世界中で見られるこの現象は、発見者の名前にちなんで「フリン効果」と呼ばれる。本書は、フリン効果の発見者自らが豊富なデータを用いて、知能のどの部分がなぜ向上したのかを解明したもの。視点が秀抜でつい購入してしまった。魅力的な題材を取り上げた書だが、そもそも断言しにくい話題なので歯切れが必ずしも良くないのは仕方がないところだろう。
 筆者は、先進国と発展途上国の差、人種による差、性別による差、年齢による差、生まれと育ちによる差などについて次々に検証していく。例えば現時点で先進国の後塵を拝する途上国だが、栄養不良や近親婚、健康障害といった諸問題を克服できれば、IQは必ず高くなると断言する。
 米国の死刑制度の問題点も興味深い。米国では、IQが70未満だと知的障害の疑いがあるとして処刑されない。しかしIQの数字は年々高くなっており、20世紀のあいだに30ポイントも上昇した。この事実を踏まえると、米国の死刑制度は矛盾を抱えていることが分かる。現在は20年前に比べIQのレベルが底上げされているので、20年前の基準の知能検査を受けたために処刑されるといったケースが出てくるのだ。
 このほか、年齢によるIQの上昇傾向に男女で差があることや、なぜ女子は低いIQで大学に入れるのかといった疑問にも筆者はデータに基づいて答えている。難点は専門的で必ずしも読みやすいとはいえないこと。軽い気持ちで読んでいると、いつの間にか議論から置いてきぼりをくうハメになるので要注意だ。じっくり読まれることをお薦めする。

書籍情報

なぜ人類のIQは上がり続けているのか?~人種、性別、老化と知能指数~

ジェームズ・R・フリン、水田賢政・訳、太田出版、p.224、¥2700

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。