横田英史の読書コーナー
サービス産業の生産性分析~ミクロデータによる実証~
森川正之、日本評論社
2015.7.10 11:00 am
GDPの70%超を占めるサービス産業の生産性向上は経済成長の鍵をにぎると言われて久しい。本書は日本のサービス産業の生産性を、事業所のミクロデータを用いて分析しており有用である。「当たり前」と思える結果もあるが、データで裏付けたことに価値がある。日本の生産性に関心をお持ちの方に強くお薦めできる。ただし学術書の色合いが強く、先行研究の紹介と分析、マクロデータの処理方法の説明にかなりのページを割いている。このあたりりを飛ばして、各章の最後にある結論を読むだけでも十分に価値はある。6480円という価格を考えれば、図書館で借りて読むのがいいかもしれない。
サービス産業の生産性は低いのかという疑問に対しては、サービス業では企業間格差が顕著なことを明らかにする。平均的な製造業に比べて生産性の高い企業が多数存在し、低生産性企業の底上げによって、サービス産業全体の生産性を大きく高められる余地があると結論づける。また製造業と異なり、生産性の高い企業ほど市場シェアが高いという相関が弱いという指摘は興味深いところだ。
サービス業では在庫が不可能なことから、稼働率は企業・事業所の生産性を規定する最大の要因となる。つまり需要密度が高い都市なら生産性は高まるし、事業所レベルでの大規模化や企業レベルでの多店舗展開・チェーン化が生産性の向上に寄与する。例えば複数事業所をもつ企業は単独の場合に比べて生産性は10~40%高いし、人口密度が2倍だと生産性は7~15%高くなるという。コンパクトシティなど、人口稠密な地域を作ればサービス業の生産性向上にインパクトを与えることができるという指摘は新鮮である。
このほか、同族会社の方が非同族会社よりも生産性の伸び率で2ポイントほど高い、労働組合がある企業の方が生産性上昇率で1.4%高い、ストックオプション導入後に生産性が高まり、導入から5年以上たった企業では生産性が12%高くなっている、といった有益な情報がぎっしり詰まっている。
書籍情報
サービス産業の生産性分析~ミクロデータによる実証~
森川正之、日本評論社、p.312、¥6480