横田英史の読書コーナー
紋切型社会~言葉で固まる現代を解きほぐす~
武田砂鉄、朝日出版社
2015.7.13 11:01 am
世の中にあふれる紋切型表現を徹底的に批判した書。どこかの書評で「日本人の感性を劣化させる紋切型」と書かれていたが、まったくその通りである。何かを表現したい場合、インターネットを探せば数多くのサンプル文例が見つかる。使い古されて陳腐な感じはするが、分かった気になるし、よく耳にするフレーズなので安心感がある。面倒くささが先に立ちつい使ってしまうが、心はこもっていないし、上っ面は綺麗だが中身に乏しい。筆者は20の紋切型表現を俎上に上げ、現在日本社会の問題を論じている。意味の取りづらい難解な表現が散見するのは残念だが、時宜にあった書であり一読の値はある。夏休みの読書にお薦めしたい。
筆者が紋切型表現として挙げるのは、「育ててくれてありがとう」「全米が泣いた」「国益を損なうことになる」「若い人は、本当の貧しさを知らない」「逆にこちらが励まされました」「誤解を恐れずに言えば」などなど。
例えば「若い人は、本当の貧しさを知らない」では、“老害論客”を問題視する。単純に生まれた時期で線を引き、相手を抵抗できないようにする論法は、自分と異なる人に対峙しない姿勢であり下品と評する。「戦災の後の焦土に立った人たち」からしか“正論”が放たれないとする議論は、才覚の貧相な再生産と断じる。
「誤解を恐れずに言えば」といって嘘をつく東大話法の話も面白い。上から目線や尊大さ、「相手の知識が自分より低いと見たら、なりふり構わず、自信満々で難しそうな概念を持ち出す」、向かってくる相手を「エセ」や「B級」「自称」としてレッテル貼りをすることで自分たちのポジションを守ろうとするといった筆者の議論展開に、ついニヤついてしまう。そういえば「もし◯◯であるとしたら、お詫びします」と謝罪したフリして切り抜ける話法も、つい最近耳にした気がする。
書籍情報
紋切型社会~言葉で固まる現代を解きほぐす~
武田砂鉄、朝日出版社、p.288、¥1836

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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