横田英史の読書コーナー
経済の大転換と日本銀行(シリーズ 現代経済の展望)
翁邦雄、岩波書店
2015.7.28 10:37 am
日本経済の課題と処方箋を論じた経済書。日本経済の現状と将来性をやや長いスパンで考え、なにが喫緊の課題で、なにが成長戦略かという視点から日本銀行の政策を分析している。多くの研究成果から、インフレ期待が支出を増やす効果は理論的予想に反してほとんど見られていないことを明らかにし、量的・質的緩和といった非伝統的金融政策は成長戦略につながらないと断じる。この時期にこそ読んでおきたい書である。
印象に残るのは、邦画「新幹線大爆破」を使った比喩。犯人は新幹線に爆弾を仕掛け、時速80kmを下回ると爆発すると脅す。何も知らない車内は平穏だが、終点(出口)に近づいたらどうなるのか。日銀の量的・質的緩和が出口に立ったとき(国債や株式・ETFの買い取りをやめたとき)の問題点を見事に突いている。
このほか労働人口の減少が急速に進行するもとで失業率が低い日本では、米国型メカニズムは期待できそうにないと主張する。つまり高成長が「労働市場における早期退職や長期失業者の増加といった現象の後遺症を解消し、潜在成長率を高める」ことは期待できそうにないと語る。日本のマクロ経済政策や成長戦略は、人口問題を直視しなければならないという筆者の主張は納得できる。
書籍情報
経済の大転換と日本銀行(シリーズ 現代経済の展望)
翁邦雄、岩波書店、p.224、¥2484
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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