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横田英史の読書コーナー

《推薦!》「ドイツ帝国」が世界を破滅させる~日本人への警告~

エマニュエル・トッド、堀茂樹・訳、文春新書

2015.8.7  10:47 am

 日経新聞の8月10日付け朝刊1面の登場するなど、このところ注目されているフランス人思想家へのインタビューをまとめた新書。フランスの雑誌やインターネット・メディアの取材に対して、ドイツ脅威論を歯に衣着せぬ物言いで展開している。世界情勢、特にドイツやロシア、フランスに対する見解が実に新鮮で、掛け値なく面白い。世界にはこういう見方もあることを知る意味で、一読されることをお薦めする。
 トッド氏の主張は、EUとユーロがドイツ一人勝ちの環境を作り出しているというもの。例えばEU内で貿易不均衡が生じているが、統一通貨EUのために各国の為替調整が行われず、ドイツに富が集積する結果を招いた。一方でトッド氏は、「ドイツをありのままに見て、批判すべきだ」と説く。ありのままにドイツを見ることができず、ドイツを真っ当に批判できない欧州各国、特にメディアに対して強い危機感を募らせている。「フランスはドイツに自ら進んで隷属した」「ドイツ嫌いを徹底的に論じるべきだ」とさえ主張する。
 ロシアに対する見方はひねりが効いて面白い。ロシア人は西欧諸国で感じられなくなって久しい高揚感、より良い未来に向かっているという実感を感じていると指摘する。日本にいると、こんな感覚は生まれてこない。ロシアは、核兵器とエネルギー自給のおかげで米国に対する反対側の重しとなる。結果として、ロシアは世界がバランスを保つことに役立つとみなす。
 ウクライナ問題の原因はロシアではなくドイツにあるという見解もユニークだ。ロシアが崩壊したら、あるいは譲歩しただけでも地政学的にドイツの影響力がウクライナまで広がる。米国との間の人口と産業の不均衡が拡大して、西欧のバランスが崩れ、米国システムは崩壊に行くつくと予測する。

書籍情報

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる~日本人への警告~

エマニュエル・トッド、堀茂樹・訳、文春新書、p.232、¥864

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。