横田英史の読書コーナー
「学力」の経済学
中室牧子、ディスカヴァー・トゥエンティワン
2015.8.27 10:38 am
「学力向上に寄与する施策」を科学的根拠(エビデンス)に基づいて導き出す教育経済学を紹介した書。学会の成果から、具体的事例を挙げて詳しく説明しており実に分かりやすい。根拠のない勘、個人的な経験、思い込みで語られることの多い日本の教育論議に一石を投じた書である。
例えば、「ゲームは子どもに悪影響を及ぼすのか」「子どもはほめて育てるべきか」「勉強させるために褒美で釣ってはいけないのか」「勉強はなぜ大切なのか」「少人数学級には効果があるのか」「いい先生とはどんな先生なのか」について、教育経済学の知見に基づいた回答を示している。教育に興味をもつ方に一読をお薦めする。
経済学らしく、教育投資の収益性に言及しているところは興味深い。株や債券などの金融資産への投資に比べて、教育への投資は収益率が高いという。しかし、日本の教育行政でおこなわれた「少人数学級」や「子ども手当」は、学力を上げるという目的に対して費用対効果が低い。経済教育学的には否定されている施策だと批判する。教育予算の使い途としては再考すべきだという筆者の主張は納得性が高い。教育研修は、教師の質を高めるうえで効果がないというエビデンスも興味深い。
筆者は、就学前教育への支出は雇用や収入の改善、逮捕率の低下など、社会的に好ましい影響をもたらすので、人的資本への投資は子どもが小さいうちに行うべきだと述べる。このほか学力テストでは計測することができない非認知能力(誠実さ、忍耐強さ、社交性、好奇心の強さなど)の重要性も強調している。
書籍情報
「学力」の経済学
中室牧子、ディスカヴァー・トゥエンティワン、p.199、¥1728
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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