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横田英史の読書コーナー

武器ビジネス(上)~マネーと戦争の「最前線」~

アンドルー・ファインスタイン、村上和久・訳、原書房

2015.10.6  12:22 pm

 武器取引の実態を丹念な取材で描いたノンフィクション。筆者は「秘密主義の世界を発見する旅」と称しているが、よくここまで調べたものだと驚かされる。NGOの活動によって、武器ディーラーと詐欺師たちの地下世界の実態が大衆の目に晒されたとも語る。本書が一級のノンフィクションには間違いないが、人間関係が複雑に入り組んでおり、しかも外国人の名前をちゃんと覚えていないと筋が追えなくなってしまうのは要注意。上下2巻の大著なので、長期休暇などで時間が取れるときに読むことをお薦めする。読むのをしばらくでも中断すると、話についていけなくなること必定である。
 とにかく個人、国、武器メーカーなど有象無象が登場する。個人としては、政治家、ブローカー、軍関係者、武器メーカーの担当者などなど。米国の政治家とサウジアラビアの王族との関係、サッチャーの息子であるマーク・サッチャーへの疑惑、ジミー・カーターの愚弟ビリー・カーターの関与など、実に多彩な話題を取り上げる。膨大な手数料を手にし、絶望的に貧しい国民に高価で不必要な武器取引を押し付ける怪しげな代理人たちの動きについての記述は実に詳細である。国家として登場するのは、米国、イギリス、フランス、スウェーデン、サウジアラビア、スイスなど。企業としては、兵器メーカーの英BAEシステムズが頻繁に顔を出すほか、米ロッキードやスウェーデンのサーブなどが登場する。
 筆者が上巻で特に力を入れているのが、1985年に調印された世界最大の武器売買取引「アル・ヤママ」。この取引は、英BAEシステムズに430億ポンド以上の利益をもたらすとともに、武器取引での影響力を増大させたという。

書籍情報

武器ビジネス(上)~マネーと戦争の「最前線」~

アンドルー・ファインスタイン、村上和久・訳、原書房、p.367、¥2592

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。