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横田英史の読書コーナー

人はいかにして蘇るようになったのか~蘇生科学がもたらす新しい世界~

サム・パーニア、ジョシュ・ヤング、浅田仁子・訳、春秋社

2015.10.19  3:56 pm

 前半は蘇生医療の進歩と現状、後半は臨死体験や幽体離脱など死後の世界を論じた書。臨死体験というと立花隆の著書が思い出されるが、最近の動静を知る上で本書は役に立つ。読み始めると驚きの連続である。筆者は、「患者を生き返させられるようになった。死は完全に可逆的である」とまで断言する。人間の死、蘇生に興味がある方に強くお薦めする。
 これまでは、心停止10分が生と死の境界だった。これが現在では3~4時間にまで延びている。しかも神経細胞や脳組織は、8時間までなら逆転(蘇生)できるというのが最先端の蘇生医療の認識だという。すごい話である。こうした蘇生科学の進展を支えているのが低体温療法と心肺蘇生法。特に身体の冷却が画期だったという。細胞が生存し続けられる状態を延長し、心停止を引き起した根源的原因がなんであれ、正常に戻すための時間を稼ぐ。筆者は多くの実例をベースにして論じており説得力がある。しかし心停止後に蘇生するかどうかは、どの病院、どの医局に担ぎ込まれるかに大きく左右される。筆者は、誰もが同じ治療を受けられる基準が必要だと主張する
 臨死体験を扱う後半は、ちょっと怪しげで面白い。意識(霊魂)は、心停止して死のプロセスが進行している間も存在し続け、機能し続けるように思われるという。「死亡していた」かに見えた間の会話や出来事を、信じられないほど詳しく思い出して説明した事例を紹介する。自分自身の心停止に関連した出来事を天井付近からずっと眺めていたと述懐する患者が多いという。

書籍情報

人はいかにして蘇るようになったのか~蘇生科学がもたらす新しい世界~

サム・パーニア、ジョシュ・ヤング、浅田仁子・訳、春秋社、p.386、¥2592

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。