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横田英史の読書コーナー

《推薦!》インテル~世界で最も重要な会社の産業史~

マイケル・マローン、土方奈美・訳、文藝春秋

2015.10.30  12:40 pm

 現在のインテルが「世界で最も重要な会社」かどうかは異論がありそうだが、一時代を築いた半導体メーカーであるのは間違いない。本書は、創業者であるロバート・ノイスとゴードン・ムーア、社員第1号でインテルを大企業にのし上げたアンディ・グローブの3人を軸に、インテルの興隆を詳細に描いた企業史である。日経エレクトロニクスでインテル番だった評者にとってはたまらない1冊だ。ノイスやムーア、グローブを知らない方も増えている現在、シリコンバレーの基本を押さえる意味で、多くの方に読んでいただきたい書である。ちなみに原書のタイトルは「Intel Trinity」。つまり三位一体であり、本書の内容をよく表している。
 本書の読みどころは、ノイス、ムーア、グローブの性格描写と3人の間の微妙な関係である。特にノイスに対するグローブの反発は、へ~っと思わせる逸話が満載で楽しめる。例えば「経営者として難しい局面に立たされたときのノイスについては不愉快で、がっかりするような思い出しかない」というグローブのコメントは実に強烈である。ただし筆者は、「インテルは不協和な起業家チームが生み出したものとしては最高のハイテク企業」と評価することも忘れない。ちなみにグローブによると、ノイスは社会性担当、ムーアは知性担当、グローブは行動力担当である。
 筆者はインテル成長の要因を、「ムーアの法則」を何が何でも維持しようと努力したことだと分析する。ムーアの法則に合わせて前進するために、不況期にもリスクをとり投資を続けたことの意味が大きいと見る。長期レンジで分析したときに、インテルの成功は技術革新よりも採用方針のほうが重要な意味を持っているという見方も興味深い。例えば、大量解雇を行った1970年代半ばの最も困難な時期にも新規採用を続けた。グローブを引き継いでCEOとなる2人、クレイグ・バレットとポール・オッテリーニはこの時期の入社だという。
 筆者の筆は公平で、世界初のマイクロプロセサ4004の発明者として4人の存在をきちんと扱っている。グローブの怒りを買いインテルの歴史から一時期抹殺されたファジンの話など興味が尽きない。残念なのは、「ムーアは自伝を書いたことも書かせたこともない」と繰り返しているところ。実は日本経済新聞の「私の履歴書」欄にムーアは1990年代半ばに登場しており、『インテルとともに:ゴードン・ムーア 私の半導体人生』として単行本にもまとめられている。日本語版しかないので仕方がないと言えばそうなのだが…

■書籍情報

インテル~世界で最も重要な会社の産業史~

マイケル・マローン、土方奈美・訳、文藝春秋、p.582、¥2268

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。