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横田英史の読書コーナー

世界を破綻させた経済学者たち~許されざる七つの大罪~

ジェフ・マドリック、池村千秋・ 訳、早川書房

2015.11.20  5:54 pm

 主流派を形成する経済学者たちが唱える経済理論の誤りを指摘し、世界経済を破綻させた罪は重いと糾弾した書。筆者はニューヨーク・タイムズ紙の元名物コラムニストで経済評論家。アダム・スミス、ケインズ、ミルトン・フリードマン、ピケティなど多くの経済学者を槍玉に挙げる。この30年あまり、正統派の経済学の核をなしてきた理論は大きな災難を世界にもたらし、2008年の金融危機とその後の大不況が発生する環境を作り出したと主張する。
 新自由主義、グローバリゼーション、インフレターゲット(現在日本で行われている金融政策とは真逆)などなど、筆者は現在流行している経済政策を次々と切り捨てる。類似の主張を掲げる書は少なくないが、歴史をさかのぼって論じるのが本書の特徴の一つ。経済理論に対する多様な見方を知るうえで読んで損はない。
 筆者が指摘する第一の誤りはアダム・スミスの「見えざる手」だ。あまりに美しい理論だけに、多くの経済学者が強く影響を受けた。経済には自己調整能力があり、自然に一般均衡が実現するので経済は自ずと安定するという考え方だが、実際には深刻な景気後退と金融バブル、暴落が繰り返されてきた。見えざる手を言う過度に単純化された理論を受け入れ、金融緩和を推し進めたために資産バブルや所得格差を生んでしまった。
 このほか、供給はそれに対応する需要を作り出すという「セイの法則」、政府の役割は限定的であるべしという「フリードマンの主張」、インフレ率をきわめて低い水準に抑えこむことに血道を上げる「インフレターゲット政策」、「経済学は科学である」という主張などに対し、歴史的な事実に基づいて批判を加えている。

書籍情報

世界を破綻させた経済学者たち~許されざる七つの大罪~

ジェフ・マドリック、池村千秋・ 訳、早川書房、p.288、¥2268

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。