横田英史の読書コーナー
検証 バブル失政~エリートたちはなぜ誤ったのか~
軽部謙介、岩波書店
2015.12.18 4:52 pm
昔話になってしまった日本のバブル。本書は、時事通信の編集委員が日銀の金融政策や大蔵省の銀行行政に焦点をあてて、バブルの発生から崩壊にいたる過程を綿密にたどった書である。バブルを拡大させたといわれる自己資本比率(BIS)規制、バブル崩壊の引き金を引いたという「不動産融資の総量規制」について多くのページを割いている。150人以上の当局者への取材、米国の公文書、日記、手記、備忘録などをもとに、具体的には誰が何をやったのか、あるいはやらなかったのかに迫っており読み応え十分である。澄田、三重野といった歴代の日銀総裁の人物評も興味深い。「バブルは別の顔をしてやってくる」と言われる。その意味で詳細な検証が不可欠であり、本書には昔話以上の価値がある。多くの方にお薦めしたい。
本書の特徴は、バブル発生と崩壊を追うときに日銀や大蔵省の施策が「なぜそうなったのか」にまで掘り下げているところ。BIS規制や総量規制だけではなく、伏線となった為替相場の動きと米国政府/議会の懸念、公定歩合引き上げの判断、米国を苛立たせた邦銀の振る舞い、大蔵省と日銀、政府との微妙な関係といった伏線を見事に描いている。
日銀と大蔵省がなぜ判断を誤ったかの分析も本書のトピックの一つ。例えば日銀。資産価値の上昇よりも一般物価を重視する日銀の行動パターンが公定歩合引き上げのタイミングを遅らせた。日銀が公定歩合を据え置き続けたことがバブルを膨らませた。利上げ時期は1年か1年半遅れたという。大蔵省については、個々の政策にはめっぽう強いが、バブルの全体像を描く能力に欠けていたと筆者は断じる。
書籍情報
検証 バブル失政~エリートたちはなぜ誤ったのか~
軽部謙介、岩波書店、p.432、¥3024
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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