横田英史の読書コーナー
眠っているとき、脳では凄いことが起きている~眠りと夢と記憶の秘密~
ペネロペ・ルイス、西田美緒子・訳、インターシフト
2016.1.2 12:37 pm
睡眠と脳の不思議な関係と巧妙な仕組みがよく分かる書。記憶力と学習効果を高める睡眠法についても触れており読んでいて楽しい。学術書的な香りが少々するが、気軽に読める書なので時間のあるときにお薦めである。
本書の扱う範囲には広い。章立てを見ても、眠らないとどうなるか、眠っている時の脳の活動、睡眠が脳にとってどれだけ大切か、脳と記憶の仕組み、目覚めと眠りのコントロール、眠りは心の大掃除、記憶はどう再生され、固まっていくのか、なぜ夢を見るのか、睡眠は心の傷を癒やす、記憶力を高め学習を促進する方法、快適睡眠を実現するガイドなど、興味深いテーマが並ぶ。
眠っている時の脳の活動の多様さには驚かされる。睡眠不足だと創造力や独創力、柔軟性など複雑な課題をこなす力が低くなる。新しいことを学ぶ力も減退する。徐波睡眠がシナプスをダウンスケーリングすることで脳のシステム全体をリセットする話も興味深い。ダウンスケーリングは新しい学習スペースを生み出すとともに、雑音を排除し、重要な情報の比率を高め、記憶の固定を促す。睡眠中に経験した匂いと音に結びついている記憶の方が、目覚めてからもよく覚えているという。匂いと音が記憶の固定を促すのだ。
睡眠には心の傷を癒やすオーバーナイト・セラピーといった機能もある。記憶を再固定化し、嫌な記憶を削除する。すり減った神経を落ち着かせ、怒りを鎮め、俯瞰的な視野をもたらし、難しい感情的な状況を緩和する効能もあるという。
書籍情報
眠っているとき、脳では凄いことが起きている~眠りと夢と記憶の秘密~
ペネロペ・ルイス、西田美緒子・訳、インターシフト、p.208、¥2268
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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