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横田英史の読書コーナー

あなたの人生の科学(上)~誕生・成長・出会い~

デイヴィッド・ブルックス、夏目大・訳、ハヤカワ文庫NF

2016.1.21  10:00 am

 架空のシチュエーションを設定し、脳科学や発達心理学、行動心理学、生理学における最新の知見を日常生活とひも付けて紹介した書。ハロルドと両親、ハロルドと結婚するエリカという架空の人物が登場する。上巻ではハロルドの両親が出会い、ハロルドが生まれ、ハロルドとエリカと出会うまでに焦点を当て、人生の節目において身体の中で生理的・心理的にどんな反応が起こり、意思決定のどのような影響を及ぼしているのかを紹介する。筆者の秀抜なストーリーテラーぶりもあって、ぐっと引き込まれる。掘り出し物の1冊である。

 筆者が強調するのは感情の重要性。理性よりも感情であり、IQよりも人柄が大切だと語る。さらに、人間は理性によって他の生物の上に君臨していると思い込んできたが、実際に重要なのは社会性だとする。人間は互いに物ごとを教え合い、互いに学び合え、感情を表現し合い、相手の気持に共鳴することができる。皆で協力して、文化や文明を作ることができることに人間の本質があると語る。

 親子関係と子供の成長についても言及する。IQを高めるには、教育ではなく、母親が愛情を注ぎ、注意を向けることの方が効果があるという。幼い時の親子関係が、子どもの心のなかに「世界のモデル」を作り、そのモデルが人生において道案内の役割を果たすとも指摘する。親は良い親で優しく接すればあればよい。親が子どもに与えるべきものは一定したリズムである。親から一定したリズムが与えられれば、子どもはそのリズムに乗ることができる。リズムの乗れば、衝動に負けて無軌道な行動を取ることもなくなるという。

書籍情報

あなたの人生の科学(上)~誕生・成長・出会い~

デイヴィッド・ブルックス、夏目大・訳、ハヤカワ文庫NF、p.416、¥994

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。