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横田英史の読書コーナー

パクリ経済~コピーはイノベーションを刺激する~

カル・ラウスティアラ、クリストファー・スプリグマン、山形浩生・訳、森本正史・訳、みすず書房

2016.1.26  12:49 pm

 コピーと創造性は共存できるだけではなく創造性を高めることも可能であることを、ファッションや料理、コメディアン、アメフト、金融、ミュージシャン、フォント、データベース産業などを例として挙げ論じた書。事例が具体的で説得力がある。普通とは逆転した視点がユニークで得るところが多い。

 筆者はまず米国のアパレル業界を取り上げる。この業界では、ヒットしたデザインはコピーされ、安価な洋服があっという間に出回る。しかし米国のアパレル産業は野放しのコピーに直面しても、これまで50年間で最高の好景気にわき、創造性に満ち溢れている。米国のファッションの特質はデザインとスタイルの目も眩むような多様性だが、その根源にはコピーがあるというのが著者の見立てだ。つまり大掛かりな合法的なコピーはかつて人々が欲しがったデザインを早々にゴミ箱送りにして、流行に敏感な人々に本当に新しい“何か”を求めさせる。こうしてファッション・サイクルが加速される。この結果、アパレルはダイナミックでイノベーティブな業界として成功を収めた。

 金融サービス業も知的財産権の保護が緩い業界である。にもかかわらずフィンテックに代表されるようにイノベーションが相次いでいる。金融サービスで重要なのは効率的で儲けの多い規模まで市場を育てること。そのためには競合他社と知的財産(アイデア)の共有が役立つどころか、むしろ不可欠とさえいえる。模倣は金融イノベーションを殺してはいない訳だ。

書籍情報

パクリ経済~コピーはイノベーションを刺激する~

カル・ラウスティアラ、クリストファー・スプリグマン、山形浩生・訳、森本正史・訳、みすず書房、p.392、¥3888

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。