横田英史の読書コーナー
あなたの人生の科学(下)~結婚・仕事・旅立ち~
デイヴィッド・ブルックス、夏目大・訳、ハヤカワ文庫NF
2016.2.5 12:52 pm
架空のシチュエーションを設定し、脳科学や発達心理学、行動心理学、生理学における最新の知見を日常生活とひも付けて紹介した啓蒙書の下巻。ハロルドとエリカと呼ぶ架空の男女に焦点を当て、出会いから結婚、不倫、仕事における成功と挫折、再就職先における成功(CEO就任)、政治家との関わりとホワイトハウス入り、功成り名を遂げた老後、そして死に至るまでを取り上げる。それぞれの局面で、生理的・社会的作用がどのような影響を及ぼしているかについて小説仕立てで論じる。幸福な人生を歩むために欠かせない人間同士の絆についても言及する。脳科学や発達心理学をちょっと変わった視点から理解することができる良書である。全米でベストセラーになったのも分かる気がする。
著者は、人間は人生の前半のほとんどを、現実世界の脳内モデルの構築に費やし、残りの後半生のほとんどをそのモデルと調和するように現実世界の方を調整することに費やすと語る。人間には「心の免疫システム」があるという話も面白い。自分が優れた人間だという証拠になるような情報を誇張してとらえ、反対に、自分の優秀さを疑わせる情報は無視する。
認知負荷の話は、先進国の格差問題を考えると重要な意味をもつ。認知負荷が現在ほど増大していなかった時代には、裕福な家庭の子どもの将来と、そうでない家庭の子どもの将来にはそれほど差がなかった。しかし認知負荷が増えるのつれて両者の差は広がり、高い教育を受けるほど将来の展望が開けるようになった。高い認知能力をもち、多くに報酬を受けて安定した家庭を築けば、その家庭で育つ子どもは容易に認知能力を高めることができる。
書籍情報
あなたの人生の科学(下)~結婚・仕事・旅立ち~
デイヴィッド・ブルックス、夏目大・訳、ハヤカワ文庫NF、p.384、¥1460
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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