横田英史の読書コーナー
《推薦!》震災復興の政治経済学~津波被災と原発危機の分離と交錯~
齊藤誠、日本評論社
2016.3.17 1:07 pm
東日本大震災から5年。当初溢れ出た書籍や情報は玉石混交。そのうえ主義主張での偏りがありがちで、何が正しいのか判然としないことが少なくなかった。本書を読んで、やっと信じるに足る書籍に出会えた感がある。震災から5年が過ぎたいま、本書は客観的で定量的な分析にもとづいており、改めて震災と原発事故を見直す際に最適である。一読を強くお薦めしたい。
経済学者である筆者は、政府の事故調査委員会の報告書や人口データ、被災データを詳細に検討し、震災復興政策と予算、福島第1原発事故への対応に大きな問題があったことを明らかにする。震災復興に対しては被害を過大に見積もってしまい、修正する機会も生かされず予算が膨張した。筆者は、被災地域の人口や産業を分析し、阪神淡路大震災の数倍の被害があったという認識は根拠がなく、その結果の過大な見積で生じた莫大な無駄を槍玉に挙げる。
一方で原発の危機対応では、過小に状況を判断した無責任な政府を問題視する。同時に、事故前に策定されていたマニュアル通りに対処していれば、被害は抑えられたことを明らかにする。東京電力や吉田昌郎・福島第一原子力発電所所長、原子力安全・保安院が、混乱のなかマニュアルに沿わないオペレーションを実行したことで、避けられた可能性のある炉心損傷と水素爆発を引き起した。このあたりの話は迫力があり、実に興味深い。
書籍情報
震災復興の政治経済学~津波被災と原発危機の分離と交錯~
齊藤誠、日本評論社、p.346、¥2376

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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