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横田英史の読書コーナー

規制の虜~グループシンクが日本を滅ぼす~

黒川清、講談社

2016.5.16  6:49 pm

 国会事故調査委員会の元委員長が、調査過程で明るみに出た日本式システムの限界と問題を論じた書。日本のリーダーたちへの評価は、「志が低く、責任感がない」「自分たちの問題であるにもかかわらず、他人事のようなことばかり言う」「普段は威張っているのに、困難に遭うと我が身かわいさからすぐ逃げる」などと極めて厳しい。実感に基いているだけに説得力がある。メディアに対しても、当事者意識が欠如している、自分で調べようととしない、言いなり構造、服従文化、権威主義などと、舌鋒鋭く批判する。本書は、福島第一原発事故から得るべき教訓をふんだんに含んだ良書である。

 ちなみに、「規制の虜」とは規制する側(経済産業省原子力安全・保安院や原子力安全委員会など)が、規制される側(東京電力などの電力会社)に取り込まれ、本来の役割を果たさなくなることを指す。その結果、「日本の原発ではシビアクシデント(過酷事故)は起こらない」という虚構がまかり通り、今回の事故につながった。

 もう一つの論点は異論が出ないグループシンク(集団浅慮)である。終身雇用や年功序列、新卒一括採用、偏差値による大学の比較、同質性の高さ、「タテ」のヒエラルヒーで「ヨコ」の動きにくい社会構造、単線路線のエリート構造など、組織的にグループシンクが起こりやすい社会的、文化的な要因が日本にあると著者は主張する。現場を知らない同質の人間ばかりが集まり「頭」で議論していると取り返しのつかないことになるという主張には説得力がある。

 ちなみに本書は2部構成を取る。第1部では、国会事故調の立ち上げから報告書提出までのプロセスを丹念に振り返る。原子力規制にかかわる「責任ある立場の人たち」の責任感の欠如、怠慢、不遜さを明らかにする。第2部では、3.11が浮かび上がらせた日本の病巣を明らかにしている。

書籍情報

規制の虜~グループシンクが日本を滅ぼす~

黒川清、講談社、p.274、¥1836

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。