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横田英史の読書コーナー

スポットライト~世紀のスクープ カトリック教会の大罪~

ボストングローブ紙〈スポットライト〉チーム、有澤真庭・訳、竹書房

2016.6.1  9:56 am

 神父による児童虐待というカソリック教会のスキャンダルを取り上げた、米ボストン・グローブ紙の調査報道をまとめたノンフィクション。初版は2002年で、2003年のピューリッツァー賞を受賞している。映画化もされ、2016年のアカデミー賞で作品賞と脚本賞を受賞した。映画化にあわせて復刻されたのが本書である。いかにも米国の新聞らしく、数百に及ぶ取材先に対する徹底した取材ぶりには舌を巻く。米国ジャーナリズムの懐の深さと健全さを感じさせる書である。

 記者たちが描くのは、カトリック教会という巨大権力の腐敗と隠蔽体質、信頼の対象だった神父の実像である。記者は性的虐待を行った神父たちを実名で取り上げ、いまは成人している被害者や家族、弁護士などへの丹念な取材でその行状を明らかにする。教会は神父たちを罰するのではなく、配置転換によって組織的に犯罪を隠蔽し続けた。

 キッカケは2002年1月の記事だった。「130人以上の人々が、ゲーガン司祭に体を触られたり、レイプされた子供時代の体験を訴えた」というもの。しかも枢機卿などカトリック教会の上層部は、虐待問題を隠蔽し続け、虐待司祭たちの福利を優先させた。この記事を皮切りに、ボストン・グローブ紙は聖職者の性的虐待事件について600本の記事を掲載し教会を追い詰めた。影響はボストンだけではなく全米、世界中に広がり、最後は教皇ヨハネ・パウロ2世の謝罪につながった。

書籍情報

スポットライト~世紀のスクープ カトリック教会の大罪~

ボストングローブ紙〈スポットライト〉チーム、有澤真庭・訳、竹書房、p.344、¥1728

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。