横田英史の読書コーナー
HARD THINGS~答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか~
ベン・ホロウィッツ、滑川海彦・訳、高橋信夫・訳、日経BP社
2016.7.14 11:02 am
心臓が縮むような経営危機からどのように抜け出したかについて、米ラウドクラウドや米オプスウェアといったベンチャー企業を経営した自らの体験を詳細に披露した書。成功した話をあとから分析して紹介する「勝てば官軍」式のビジネス書とは一線を画す。
筆者はこう語る。「コンサルタントが書く経営書のほとんどは、成功した企業の平時の経営スタイルの研究を基にしていることを注意しなければいけない」と。本書は、困難に直面した著者が、うまくいかないときにどう考えたか、どう切り抜けたかを詳述しており、読み応え十分である。ポイントは勇気だと言う。経営者だけではなく、多くの管理職の方にお薦めしたい。
サブタイトルの「答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか」。本書の内容を的確に表現している。些細なためらいが、致命的な遅れや経営破綻の原因になりかねない修羅場をくぐり抜けてきた著者の経験は実に貴重である。ちなみに著者はシリコンバレーのベンチャーキャピタル「アンドリーセン・ホロウィッツ」の共同創業者。一方の創業者はネットスケープのマーク・アンドリーセンである。
筆者はこう語る。「スタートアップのCEOは確率を考えてはいけない。会社の運営では答えがあると信じなければいけない。答えが見つかるまで、確率を考えてはいけない」。どの会社にも、命がけで戦わなければならないときがある。戦うべきときに逃げていることに気づいたら、自分にこう問いかけるべきだと述べる。「われわれの会社が勝つ実力がないのなら、そもそもこの会社が存在する必要などあるのだろうか」と。
評者が興味深く読んだのは、ベンチャー企業が大企業から経営者を迎えて失敗するエピソードである。大企業とベンチャーのペースのミスマッチ、スキルのミスマッチが悲劇を生む。
書籍情報
HARD THINGS~答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか~
ベン・ホロウィッツ、滑川海彦・訳、高橋信夫・訳、日経BP社、p.276、¥1944