横田英史の読書コーナー
ポスト・ヒューマン誕生~コンピュータが人類の知性を超えるとき~
レイ・カーツワイル、日本放送出版協会
2016.8.21 4:30 pm
いま話題のシンギュラリティ(特異点)の原典である。筆者は米発明家のレイ・カーツワイル。特異点とは、テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないまでに変容することを指す。シンギュラリティのポイントはGNR革命にあると筆者は語る、遺伝学、ナノテクノロジー、ロボット工学(強いAI)の3つの分野で革命的な進歩を遂げることがキッカケとなる。いったん強いAIが完成すれば、急速に超知能が高性能化し始めるという。
9年前に書かれた本だが、さほど古さを感じさせない。コンピュータサイエンスにとどまらない網羅性を誇ることもあって600ページを超える大著だが、読む価値は十分だ。ちなみに、重要部分を抽出して再編集するとともに編集部の「あとがき」を新たに付け加えた256ページの「エッセンス版」が4月に出版されたので、こちらを読むのも悪くない。
ITが人間の知識や技量をすべて包含し、ついには人間の脳に備わったパターン認識や問題解決能力、感情や道徳に関わる知能すらも取り込むようになると筆者は予想する。IoTの観点でいえば、コンピュータが衣服に編み込まれたり、家具や生活環境に埋め込まれ、それらが高速のネットワークでつながりワールド・ワイド・メッシュを構成するようになる。
筆者は、テクノロジーの指数関数的な進化によって、人類は2045年に特異点を迎えると宣言する。2030年には人間の脳に匹敵する能力をそなえたコンピュータが、1ドルで購入できるようになる。人間は、無数のナノボット(バイオMEMS:生物医学的微小電子機械システム)を体内に取り入れ、病原体を見つけ出し、それに向けて正確に薬剤を運べるようになる。そして、人体は永遠の寿命を手に入れるという。何とも尖った予言である。技術の最新動向や知見をおさえた論考とはいえ、壮大な物語であり、そして実に楽観的である。もっとも著者によれば、科学者や技術者の多くは「科学者の悲観主義」に侵されているということになるのだが…。
書籍情報
ポスト・ヒューマン誕生~コンピュータが人類の知性を超えるとき~
レイ・カーツワイル、日本放送出版協会、p.661、¥3240