横田英史の読書コーナー
科学の危機
金森修、集英社新書
2016.8.27 4:32 pm
東大生協のランキングの上位にあったので、つい買ってしまった書。科学史の研究者が、科学と現代社会の関わり方について哲学的な議論を展開する。科学と科学者の在り方が変わってきたことを、科学史を振り返りつつ論じるとともに、この数年間に日本で起きた科学絡みの大事件について考察を加える。現在の科学者はサラリーマン化しており、19世紀の聖職者的な雰囲気はないと断じる。議論は抽象的で取っつきにくいが説得力があるので、科学者の倫理に興味のある方が一読するのは悪くない。
STAP細胞事件で筆者は、一流とされる科学者が再検証可能性や普遍性を無視した言動を行ったことに衝撃を受けたことを明らかにする。そう言えば、そうだったかもしれない。 STAP細胞事件の背景に、国家の科学政策や短期で研究成果をあげるように促す社会圧力を見出している。このあたりの議論は共感できる。
科学の大きな流れとして、CUDOS(クードス)からPLACEへの変化があるというのが筆者の見立てである。つまり、かつての科学は公有性(C:communalism)、普遍性(U:universalism)、無私性(D:disinterestedness)、組織化された懐疑主義(O:organized skeptisim 新しい知識は批判的に評価されなければならない)の上に成り立っていた。これが、所有化(P:proprietry 研究成果の独占)、局所的(L:local)、権威主義的(A:authoritarian)、非委託性(C:commissioned 政府、権力者、資本からの特定の課題を委託)、専門性(E:expert work)と変節を遂げたという。
ちなみに筆者は認識論を専門とする哲学者。認識論とは、物事の真偽の基準はどんな根拠があるのか、人間の知識の源泉は経験のみなのかといいったことを抽象的に考える学問という。したがって本書の議論もかなり抽象的である。
書籍情報
科学の危機
金森修、集英社新書、p.240、¥821