横田英史の読書コーナー
唐牛伝~敗者の戦後漂流~
佐野眞一、小学館
2016.9.22 2:19 pm
60年安保で全学連を率いた唐牛健太郎の評伝。唐牛の魅力的な人となりと、安保闘争以降の波乱万丈の人生を中心に描いている。佐野眞一のノンフィクションは、橋下徹の評伝が物議をかもして以来なので久々である。週刊誌の連載がもとになっていることもあり、話があちこちに飛んで読みづらい面があるが、佐野らしい丹念な取材で唐牛の人生を描いており読み応えがある。評者が大学に入ったのは学生運動が下火になった頃だが、それでも懐かしい思いにさせられる。あの時代前後の雰囲気を思い出したい方にお薦めの1冊である。佐野の渾身の後書きも悪くない。
本書を読んで驚くのは登場人物の多彩さだ。例えば、ノーベル経済学賞が有望視された青木昌彦、精神科医・島成郎、保守の論客・西部邁などが次々に登場する。このほかにも、右翼の親玉・田中清玄、フィクサー・児玉誉士夫、山口組の田岡一雄、徳洲会の徳田虎之助などが唐牛の人生を彩っている。60年安保を闘った仲間たちが大成したにも関わらず、60年安保の後は堀江健一とヨットスクールの設立、新橋での居酒屋店主、北海道での漁師、オフコンのセールスマン、徳田虎雄の選挙参謀と転々とした唐牛だけが小成に終わったというのが佐野の見立てである。
書籍情報
唐牛伝~敗者の戦後漂流~
佐野眞一、小学館、p.395、¥1728
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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