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横田英史の読書コーナー

経済は「予想外のつながり」で動く~「ネットワーク理論」で読みとく予測不可能な世界のしくみ~

ポール・オームロッド、望月衛・訳、ダイヤモンド社

2016.10.6  6:39 pm

 100年前の経済学で21世紀の社会を理解できるのか、経済学者はいまだになぜ金融危機を防げないのかと疑問を投げかけ、新しい解決策としてネットワーク理論を押し出した書。経済学における「合理的な行動をする個人(合理的経済人)」という仮定を否定し、ネットワーク理論で社会と経済の動きを予想する。現実に合わせた新しい仮定とそれに基づく新しいモデルを作って、政策や戦略立案に役立てることを狙う。リーマンショックは、金融機関は「大きすぎてつぶせない」だけではなく、「つながりすぎてつぶせない」と当局に思い知らせたと説く。正統派から外れたエコノミストである筆者の主張は過激だが説得力に富む。刺激的な経済書である。

 筆者は、人はそれぞれ独立して選択を行う、他の人がそうだからといって自分の好みや意見をそれに合わせたりすることはないという仮定は、もうもたなくなっていると語る。人の選択や態度、意見は他の人の影響を強く受ける。人は他の人もそうだからというだけで自分の好みを他の人と同じに変えてしまう、単にそれが流行っているからというだけでさらに流行る「ネットワーク効果」は、現在の世の中のあちこちで見られることを、筆者は身近な事例を挙げて主張する。このあたりに議論の進め方は実に巧妙である。

 筆者は合理的経済人ではなく、合理的模倣人が正しい人間の捉え方だという。人は、ネットワーク上にいる他のエージェントの行動を真似する傾向がある。なぜなら現代社会では選択肢が膨大であり、提供される製品やサービスはとても複雑で、評価するのが難しい。一方で通信技術が進歩したおかげで、これまでに比べてはるかに他人の行動や考え、購買行動を観察できるようになった。その結果、選ばれる製品やサービスに偏りが生まれ、ある時点でうまくいっていなければ、将来成功する可能性はまったくなくなる。

書籍情報

経済は「予想外のつながり」で動く~「ネットワーク理論」で読みとく予測不可能な世界のしくみ~

ポール・オームロッド、望月衛・訳、ダイヤモンド社、p.384、¥2160

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。