横田英史の読書コーナー
《推薦!》バブル:日本迷走の原点
永野健二、新潮社
2016.12.1 10:20 am
一本筋の通った、居ずまいを正して読みたくなる書である。非常に勉強になり、バブルを振り返るときの教科書的な書籍になる気がする。筆者は、バブルの胎動から膨張、狂乱、清算、後始末について、その時々の登場人物の逸話を軸に紹介する。筆者はこう語る。「バブルの時代という大きなうねりのなかで、敗れて行った人たちや、否定された人たちの行動のなかにこそ、変革への正しい道筋が埋もれているのではないか」「バブルとは、何よりも野心と血気に満ちた成り上がり者たちの一発逆転の物語であり、彼らの野心を支える金融機関の虚々実々の利益追求と変節の物語である」と。
バブル期の真実を扱ったノンフィクションという意味では、以前紹介した「住友銀行秘史」と同様だが、一本筋の通った経済・経営哲学にそってあの時代を振り返っているところが大きく異る。多くの方にお薦めの意1冊である。ちなみに筆者は元日本経済新聞記者だが、一時期、日経BP社に出向し日経ビジネス編集長を務めたこともある。したがって、この書評にはバイアスがかかっている可能性がある。
冒頭はジャパンラインの買収事件。これが興銀の「終わりの始まり」だったと断じる。興銀とアングラ社会のつながりは80年代バブル時代の「そごう問題」「尾上縫事件」にまでつながり、興銀の命脈を断つに至ったとする。
このほか、加藤暠の誠備グループ、糸山英太郎、岩沢靖、高橋治則のイー・アイ・イー・グループ、渡辺喜太郎の麻布土地グループ、江副浩正のリクルート、小林茂の秀和、ピケンズの小糸製作所株の買い占め、M&Aの歴史を作ったミネベアの高橋高見、NTT株の上場フォーバー、山一證券の破綻、住友銀行とイトマン、営業特金やファンドトラスト(ファントラ)など、今では昔話となってしまったあの時代を振り返っている。
歴史上のターニングポイントをきっちり押さえているのも本書の特徴である。例えば92年8月はバブル崩壊後の日本が復活する最後のチャンスだったと断じる。大蔵省の危機意識の欠落と、銀行経営者の自己保身が宮沢構想をつぶした。宮沢喜一と三重野康という内閣総理大臣と日銀総裁が歩調を合わせた政策を、銀行と官僚、政治家の鉄の三角形の成れの果てが阻害したというのが著者の見立てである。
書籍情報
バブル:日本迷走の原点
永野健二、新潮社、p.288、¥1838