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横田英史の読書コーナー

帝国の参謀~アンドリュー・マーシャルと米国の軍事戦略~

アンドリュー・クレピネヴィッチ、バリー・ワッツ、北川知子・ 訳、日経BP社

2016.12.20  2:31 pm

 1945年に始まった冷戦時代から40年以上にわたって米軍の戦略を立案し、「ペンタゴン(米国防総省)のヨーダ」と呼ばれたアンドリュー・マーシャルの評伝。マーシャルは2015年に93歳で公職から引退するまで、対ソ戦略や対中戦略などを政府高官にアドバイスを続けただけに、登場人物は多彩で貴重な逸話が少なくない。もっとも機密に属するだけに、本人が率いたペンタゴンのネットアセスメント室(ONA)の資料は公開されておらず、肝心なところが分からないのは残念だ。「戦略的思考」「国家安全保障と国防戦略を構成する発想や構想」などのヒントが隠された書なので、途中で放り出さず忍耐強く読み進むのをお薦めする。

 マーシャルの戦略を特徴づけるのがネットアセスメント(総合戦略評価)という考え方である。兵器や兵士の数、軍事予算といった合理的な側面(定量的数字)だけでは、戦争の勝敗や核抑止力は評価できない。国家の経済力と軍事費の比率、技術力、人間の行動の非合理的側面といった要素を加え総合的に彼我を評価するというもの。実際、合理的アクターモデルだけではキューバ・ミサイル危機における米ソ政府の判断を十分に説明することができないという。

 冷戦時代の対ソ戦略は興味深い。米国やNATOから見たソ連の強さや脆弱性ではなく、ソ連の目で見たそれらを特定し評価し、ソ連崩壊に追い込んだ。ソ連経済は軍事支出と計画経済固有の非効率という重荷を背負い、構造的問題は深刻になる一方だった。そこに戦略防衛構想(SDI)が登場し、長期的にソ連に過剰なコストを課し、経済的に疲弊させた。これがソ連の崩壊につながった。

書籍情報

帝国の参謀~アンドリュー・マーシャルと米国の軍事戦略~

アンドリュー・クレピネヴィッチ、バリー・ワッツ、北川知子・ 訳、日経BP社、p.504、¥3024

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。