横田英史の読書コーナー
《推薦》最後の資本主義
ロバート・B. ライシュ、雨宮寛・訳、今井章子・訳、東洋経済新報社
2017.1.4 10:36 am
帯の釣り文句「トランプ誕生の深層」は、本書の内容を的確に言い表している。原書は2015年に出版されており、トランプ以前から米国の社会がどういった状況にあったかを理解することができる。トランプ大統領誕生に首をひねっている皆さんにお薦めの1冊である。
筆者は、すべてを煙に巻いているのが「自由主義」という言葉だと主張する。この言葉のために、経済的利益を分配するシステムが、あたかも中立的な力によって生じた自然で必然的な結果であるような印象を与えている。しかし現実は異なる。社会のアッパークラスが、自分たちを豊かにするように市場のルールを定めている。具体的には、大企業や個人資産家が資金を投じて自分たちに都合の良いようにゲームのルールを作り上げ、そうすることで豊かさを増し、ルールに対してさらに影響力をもつようになっている。しかも、このサイクルがほとんど秘密裏に進行することを問題視する。
平均的な中流家庭の所得が減り、ワーキング・プアが困窮化しているのは、彼らの政治的・経済的な影響力が弱体化しているからだと喝破する。多くの人々にとって、経済制度も政治制度もいかさまに映り、最初から富裕層にばかり有利に仕組まれているように見える。資本主義を脅かしているのは現代社会の成長と安定に不可欠な「信用」の弱体化だと断じる。
今後数年のうちに、米国政治を二分する境界線が「民主党か共和党か」から「反体制派か体制支持派か」へとシフトする可能性が高いと著者は語る。つまりゲームがいかさまであると考える中間層、労働者層、貧困層と、イカサマを行っている大企業の幹部、ウォール街の住人、億万長者という対立軸である。
自分を利することのない経済や市場のルールに対して無料感を感じている市井の人々がさらに不安感や不満を募らせれば、敵意むき出しの国家主義的な動きや、時には人種差別や移民反対などの市民感情を生み出し、世界の先進各国で政治不安が広がるかもしれないと、筆者は2015年の時点で予測している。
書籍情報
最後の資本主義
ロバート・B. ライシュ、雨宮寛・訳、今井章子・訳、東洋経済新報社、p.363、¥2376