横田英史の読書コーナー
発達障害
岩波明、文春新書
2017.5.2 9:43 am
発達障害とは何か、社会や教育現場、職場はどのように受け入れるべきかなどのついて、専門医師がテレビ番組や映画、実例を交え分かりやすく解説した書。ADS(自閉症スペクトラム障害)、ADHD(注意欠如多動性障害)、アスペルガー症候群、カサンドラ症候群、サヴァン症候群など、何となく知っているものの詳しくは分からない疾患について理解できる好著である。
アスペルガー症候群などの発達障害が市民権を得たのは、犯罪事件に関するセンセーショナルな報道によってであり、ある意味で黒歴史だと著者は指摘する。そもそもマスコミの記事は不正確なものが多く、発達障害の概念は誤解されていることが少なくない。刑事事件でも誤診がまかり通っていると警鐘を鳴らす。
筆者は、発達障害についての大きな問題の一つとして、診断の不正確さを挙げる。過剰な診断と過小な診断が問題を引き起こしている。
前者では、発達障害とは言えない人や他の精神疾患に罹患している人が、発達障害と診断されているケースが少なくないという。また ADHD と ADS の表面上の症状はかなり似ており、臨床現場では ADHD を ADS と間違って診断するケースが珍しくない。「対人関係が苦手な人」や「少し変わったところがあり、周囲から浮いた人」について、ASD と決めつける風潮が強いことが原因だとする。世の中で ASD と言われているケースは、「対人関係が不得意な」ADHD であることが多いという。
書籍情報
発達障害
岩波明、文春新書、 p.255、¥886
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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