横田英史の読書コーナー
東芝の悲劇
大鹿靖明、幻冬舎
2017.10.26 10:09 am
これまで東芝の粉飾事件を扱ったノンフィクションを何冊かこの書評で紹介してきたが、内容の充実度で今のところ本書がピカイチである。東芝事件は人災だったというのが筆者の見立てで、丹念な取材にもとづき歴代トップの判断ミス、名誉欲、嫉妬、責任逃れを白日のもとに晒している。実に凄まじいトップの行状の数々を明らかにする。ちなみにエピローグで、元広報室長が歴代社長を「模倣の西室、無能の岡村、野望の西田、無謀の佐々木」と評したことを紹介するが、本書を読むと納得である。
東芝事件は西田厚聰と佐々木則夫の両元社長を中心に語られることが多い。しかし筆者は、東芝で不祥事の原因を西室泰三元社長に遡って解き明かす。まず冒頭で、傍流の海外営業出身の西室がどのような経緯で社長に上り詰めたかを、生い立ちや大病の経験などのエピソードも絡めて詳述する。そして20年以上にわたって東芝を支配し、人事を壟断したことが、内紛と粉飾決算につながったとする。
このほかパソコン事業やメモリ事業、原子力事業の時系列での盛衰、粉飾にいたる経緯や仕組みなど、東芝問題を知るうえで不可欠な情報が詰まった1冊である。読み応え十分で、多くの方にお薦めしたい。
書籍情報
東芝の悲劇
大鹿靖明、幻冬舎、p.367、¥1728
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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