横田英史の読書コーナー
ジョブ理論~イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム~
クレイトン・M ・クリステンセン、タディ・ホール、カレン・ディロン、デイビッド・ S ・ダンカン、依田光江・訳、ハーパーコリンズ・ジャパン
2017.11.9 1:54 pm
「イノベーションのジレンマ」の著者クレイトン・クリステンセンによる、イノベーションを生む思考術。顧客が片付けたいと思うジョブ(仕事)に注目することが重要だと説く。顧客が「商品Aを選択して購入する」ということは、「片づけるべき仕事(ジョブ)のためにAを雇用(ハイア)する」ことだというのが著者の見立てだ。ジョブ理論によってイノベーションは運任せでなくなるという。「イノベーションのジレンマ」ほどの切れ味は感じないが、注目すべき論点が多い、イノベーションを生むべく日々奮闘されている方々にお薦めの1冊である。
「ビッグデータの傲慢」といった警句に満ちているのも本書の特徴。顧客データを多く集め、市場分析を行ってもイノベーションは起きない。数値化できない因果関係やコンテクストにこそイノベーション成功の鍵がある。興味深いのは受動的データと能動的データという視点。後者の能動的データは目立つし定量化し易い(スプレッドシートに落としやすい)ので、企画担当者やマネージャーは飛びつきがち。だが、イノベーションにつながることは多くないとする。顧客の行動の底流を明らかにする受動的データこそ、動きは小さいが有用だとする。
米国の経営書らしくイケアや GM、 ボルボ、サザンニューハンプシャー大学(SNHU)、プロクター&ギャンブル(P&G)、エアビーアンドビー、アマゾンなどケーススタディを多く紹介しており、理解を助けてくれる。大切なのは進歩(プログレス)であって商品(プロダクト)ではない。成功するイノベーションは顧客の成し遂げたい進歩を可能にし、困難を解消し、満たされない念願を成し遂げるものだと強調する。
書籍情報
ジョブ理論~イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム~
クレイトン・M ・クリステンセン、タディ・ホール、カレン・ディロン、デイビッド・ S ・ダンカン、依田光江・訳、
ハーパーコリンズ・ジャパン、p.392、¥2160