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横田英史の読書コーナー

脳の意識 機械の意識~脳神経科学の挑戦~

渡辺 正峰、中公新書

2018.1.29  2:04 pm

 脳神経科学の書を何冊か本書評で取り上げているが、そのなかでも刺激的でインパクトの強い1冊である。人間の意識の問題を掘り下げ、シンプルなニューロンの働きからなぜ意識が生まれるのか、人工の意識は作り出せるのか(コンピュータ・シミュレーションされた神経回路網に意識が宿ることはあるのか)について最新の研究成果を紹介するとともに自説を披露する。筆者の事例の選び方が適切で、解説の仕方も秀抜で実に分かりやすい。知的好奇心を満足させられる新書に仕上がっており、脳に興味を持つ方にお薦めの1冊である。

 それにしても脳は不思議な臓器である。目で見たモノをそのままではなく、不自然に欠けている部分は補間(補完)して、可能な限り自然になるように脳のなかで像を作り上げる。つまり我々が見ていると思っているモノと実物とは必ずしも一致しないのだ。著者は脳の仮想現実システムが、目や耳などから得た外界の断片情報をもとに「それらしく」仮想現実を作り上げて我々に見せていると表現する。

 筆者は本書の最後で、「人間の知識を機械に移植し、死んだあとでも機械のなかで生き続けられるのか」についての見解を披露している。スリリングである。

書籍情報

脳の意識 機械の意識~脳神経科学の挑戦~

渡辺 正峰、中公新書、p.336、¥1432

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。