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横田英史の読書コーナー

文系と理系はなぜ分かれたのか

隠岐さや香、星海社新書

2018.10.11  6:33 pm

 文系と理系という区分がどういった経緯で出来上がったか、この区分が人々の人生や産業、社会制度、イノベーションにどのような影響を与えたか、進路選択に見る性差などを欧米と日本を中心に探った書。中世の欧州にまで遡って議論しており読み応えがある。日本で理系、文系の概念に最も影響を与えたのは、技官と文官を明確に区分した官僚制度と、大学入試と文系、理系を関連づけた中等教育だというのが著者の見立てである。

 最後には文系と理系の境目が揺らいでいる現状、日本で巻き起こった国立大学における文系廃止論についても言及する。特に、国民経済に貢献するとしてクローズドイノベーションを前提に理工系に重点投資した「イノベーション政策1.0」、研究開発のリニアモデルから脱し経済学や経営学を駆使しオープンイノベーションを前提にした「イノベーション政策2.0」、さらには持続可能な発展目標SDGsと関連する「イノベーション政策3.0」についての論考は読み応えがある。新書にしては参考文献が充実しているところもいい。

 教科書で習った百科全書の分類が記憶、理性、想像力の3つに大別されている話や、世界で初めて総合大学に工学部を開設したのは日本の帝国大学(東京大学)だったなど、“薀蓄系”の話も登場し読ませる。ちなみに百科全書は、記憶の下に歴史、理性の下に哲学、想像力の下に詩学を置く。さらに哲学は神の学、人間の学、自然の学に分かれている。

書籍情報

文系と理系はなぜ分かれたのか

隠岐さや香、星海社新書、.p.253、¥1058

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。