横田英史の読書コーナー
フューチャー・ウォー:米軍は戦争に勝てるのか?
ロバート・H.・ラティフ、平賀秀明・訳、新潮社
2018.12.14 9:45 am
テクノロジーの変化が、戦争にどのような影響を及ぼし、人類や米国社会、人間の倫理にどう波及するかを論じた書。米国空軍の元少将による実体験を織り込だ記述には迫力がある。米国社会と軍隊との心理的な離反(軍の孤立)、未来の戦争で使われる技術が兵士に与える影響など興味深い論点にも言及しており、キャッチーな表題から感じられる内容よりも深みがある。世界の政治・社会が不安定になるなか、軍隊の置かれた最新状況を頭に入れておくのは悪くない。国際情勢に興味のある多くの方にお薦めの1冊である。
筆者はAI、サイバー戦、化学兵器、病原菌、無人兵器のほか、超小型の電子神経支援装置や外骨格増強装具、知覚増進剤など薬物使用によって生じる戦争の新形態を解説する。筆者は、遠隔からの交戦では人はアイコンと化し、IoT時代の兵隊はデータ収集の集合体になると語る。それにしても、人間の身体や精神を武器として最適化する試みは空恐ろしい。
戦争における自動化と自律化には罠があるとする。「戦術レベルの現場指揮をなくすことは、やがて一つの作戦を担うようになる明日のリーダーたちから貴重な実体験を奪う」と警鐘を鳴らす。テクノロジーは我々を誘惑するという見方は納得できる。あたかも新しいオモチャを手に入れた子供と同じように、つい試してみたくなるのだ。
書籍情報
フューチャー・ウォー:米軍は戦争に勝てるのか?
ロバート・H.・ラティフ、平賀秀明・訳、新潮社、p.249、¥2160
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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