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横田英史の読書コーナー

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

伊神満、日経BP社

2019.2.12  10:01 am

 経営学者のクリステンセンの名著「イノベーションのジレンマ」を経済学の観点から分析し直した書。筆者は「クリステンセンのテーマと事例は面白いが、取材と記述のみなのでふわっとしている。経済学的に煮詰める必要がある」と考え、本書を著したという。「なぜ優良企業は新技術での競争に敗れ去るのか?」の命題に対する結論はクリステンセンと同じだし、内容的に画期的という感じはないが、経済学のデータ分析手法を知ることができる。「イノベーションのジレンマ」は20年前もの書である。いまでも古さを感じさせないが、別の切り口を提示する本書で改めて振り返るのも悪くない。

 筆者がキーワードとして選んでいるのが、 「共喰い」「抜け駆け」「能力格差」である。このキーワードを軸に既存企業の行動パターンを導き、新興企業の軍門に下るまでのプロセスを明らかにする。既存企業は抜け駆けの誘惑に強く駆り立てられ、新参企業よりも“素”のイノベーション能力は優れているものの、結局は腰砕けになる。これは、「共喰い」懸念のせいだと筆者は結論付ける。既存企業に足りないのは能力ではなく意欲とする。

書籍情報

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

伊神満、日経BP社、p.320、¥1944

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。