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横田英史の読書コーナー

ルポ 人は科学が苦手〜アメリカ「科学不信」の現場から〜

三井 誠 著、光文社新書

2019.6.1  11:48 am

 UCバークレイに留学し米国特派員を務めた読売新聞の科学記者が、「米国のトランプ現象」を米国に根ざす科学への不信を切り口に分析した書。科学的な事実をフェイクと言い放つ米国の現状を見事に解説している。オバマ就任時と比較して大統領就任式の群衆の少なさを否定して「オルタナティブ・ファクツ」と強弁したり、地球温暖化を否定する理由を、米国における宗教観や政治的スタンスとの関係から読み解く。社会学的な観点から語られることが多いトランプ現象だが、理系的な観点を加味した視点がユニークで興味深い。

 米国人の4分の3は、「神のおかげで人類は誕生した」と考えているという。進化論への支持は19%に過ぎず、進化論を否定した創造論が根強い支持を得ている。最高裁で違憲との判決が下ったあとも、理科教育に創造論を取り入れる動きは続く。

 筆者は米国人への取材を進めるうちに、人は科学的に考えることがもともと苦手ではないのかと思い至る。人類誕生から見れば科学の歴史は浅い。恐れや怒りといった本能(生きる知恵)に比べて、科学的な思考は人間の脳に十分に根付いていない。このことが、科学への本能的な拒絶につながっているとみる。「現代人には石器時代の心が宿っている」訳だ。

 筆者はこう語る。正しいと主張するだけでは相手に伝わらない。コミュニケーションの取り方が重要である。「どうすれば、うまく科学と付き合っていけるのか」「科学をどのように伝えるべきか」といった問題意識は、技術ジャーナリズムに通じており共感できる。

書籍情報

ルポ 人は科学が苦手〜アメリカ「科学不信」の現場から〜

三井 誠 著、光文社新書、p.248、¥907

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。