横田英史の読書コーナー
2050年のメディア
下山進、文藝春秋
2019.12.8 1:22 pm
「新聞の切り抜きを使った授業はもうできないんです。新聞をとる家庭がもうないからです」という書き出しで始まるメディアを扱ったノンフィクション。読売新聞、日本経済新聞、ヤフーを題材に、2000年代におけるメディアの興亡を明らかにする。なぜ新聞は凋落したのか、そのなかで日経新聞は勝ち組となったのか、インターネットメディアはどのように興隆したのかについて、新しいメディアへのパラダイムシフトを大局観と現場視点をうまく組み合わせて描いている。非常に内容の濃いノンフィクションである。インターネットによるディスラプションやイノベーションのジレンマの実態を知るうえで格好の1冊であり、多くの方にお薦めできる。
本書はロイター、ブルーンバーグ、日本経済新聞、時事通信を中心にメディアの描いた「勝負の分かれ目」(1999年刊)の著者の最新作である。1999年当時に比べ、新聞社がコンプライアンス強化の名目のもと記者やOBへの締め付けを強めるているなか丹念な裏付け取材を行っており高く評価できる。ちなみに筆者は文藝春秋社を退社し、現在は慶應義塾大学特別招聘教授。湘南藤沢キャンパスで講座「2050年のメディア」を開いている。
興味深いのは、編集とエンジニアの距離感、編集と業務部門(広告と販売)の距離感が紙とネットでは全く異なることをきちんと描いているところ。例えば、テクノロジーメディアを標榜する日経の“キモ”として、アプリを内製化し、AWSの日本一の使い手とも言われるエンジニアの存在をきちんと評価している。残念なのは電子版成功の功労者である、日経BP社出身の渡辺洋之常務(元日経パソコン編集長・発行人)の取材が断られているところ。電子版立ち上げの時点で日経新聞よりもインターネット利用で先行していたBP社も絡めて取材していれば、本書の内容はさらに濃くなっただろう。
書籍情報
2050年のメディア
下山進、文藝春秋、p.437、¥1980