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横田英史の読書コーナー

イノベーションは、万能ではない

西村吉雄、日経BP

2019.12.21  1:27 pm

 イノベーションは経済的な発展に必ずしもつながらないことをデータと歴史的経緯を踏まえつつ明らかにし、日本における「イノベーション万能論」に警鐘を鳴らした書。GAFAをはじめとしたICTの領域でイノベーションは起こっているのに、国の経済成長につながっていない。「何故なのか」について多方面の資料を渉猟しながら検証を進める。バックデータを駆使して持論を展開する筆者の手法は本書でも踏襲されており、安定感と説得力をもたらしている。イノベーションに興味を持っている多くの方にお薦めの1冊である。

 「銀の弾丸などない」はずだが、1990年代から亢進し始めた日本におけるイノベーション熱は冷める気配がない。しかしイノベーションへの期待とイノベーション関連で打ち上げられる施策とは裏腹に、日本経済に再生の兆しは見られない。日本の1人当たりGDPは世界28位で、先進国としては最低水準に沈む。筆者は「イノベーションとは何か」から説き起こし、研究→開発→生産→販売→市場への連鎖するリニアモデルの限界、中央研究所の終焉、企業家(起業家)/シリコンバレーの台頭などを切り口に、成長を生み出すものは何かについて論じる。

 最後の第3部「ICTイノベーションズ」で取り上げるのは半導体(集積回路)と電気通信。前者ではマイクロプロセッサ、後者ではインターネットをイノベーションの事例として紹介する。特に筆者が得意とする半導体の章は読み応えがある。インターネットの章では「民主主義をどう担保するのか」と、現在の世界が直面している問題点にも言及する。ちなみの著者は、評者が日経エレクトロニクスの記者だった時代の編集長。本書評にはバイアスが含まれている可能性があることを断っておく。

書籍情報

イノベーションは、万能ではない

西村吉雄、日経BP、p.496、¥2750

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。