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横田英史の読書コーナー

日本経済のマクロ分析〜低温経済のパズルを解く〜

鶴光太郎、前田佐恵子、村田啓子、日本経済新聞出版社

2019.12.24  9:47 am

 各種の統計データを駆使しながら、日本経済がなぜ30年にわたって停滞が続くのか、アベノミクスをはじめとする過去の経済政策の問題点は何か、どのような処方箋が考えられるかについて論じた書。クレバーな論理構成で説得力に富む。経済書の場合、往々にして経済学の知識を前提にしたところがあり、議論に論理のギャップを感じることが少なくないが、本書にはそうした違和感がない。日経新聞の「エコノミストが選ぶ 経済図書ベスト10」に食い込んだのも理解できる。お薦めの1冊である。

 日本の景気は最悪期は脱しているものの力強さが見られない。景気と労働需給の関係の分断、景気・労働需給と賃金・物価の関係の分断、景気と設備投資の関係の弱まり、生産性向上の低迷などによって、景気回復の勢いをさらに高める累積メカニズムが弱っている。

 例えば景気回復によって労働需給が逼迫しても、設備投資は低調だし、賃金・物価の反応は弱い。物価は価格据え置きがデフォルトになり、いっこうに上昇しない。設備に投資が向かわないのは、能力増強から更新に目的が変わったことが大きい。さらにM&Aが重要な経営手段になったことで、大型買収の機会を逃さないために常に資金の流動性を高めることが求められ、設備投資にお金が回らなくなったという。

書籍情報

日本経済のマクロ分析〜低温経済のパズルを解く〜

鶴光太郎、前田佐恵子、村田啓子、日本経済新聞出版社、p.240、¥3300

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。