横田英史の読書コーナー
ザ・ワン・デバイス〜iPhoneという奇跡の“生態系"はいかに誕生したか〜
ブライアン・マーチャント、倉田幸信・訳、ダイヤモンド社
2020.1.9 10:52 am
ちょっと風変わりなiPhone開発物語。ジョブズの気分に左右され、意外にも行き当たりばったり的だった開発プロセスを明らかにする。Apple社内におけるハードウエアとソフトウエアの開発過程だけではなく、Liイオン電池の原料であるリチウムの採掘現場(ボリビア)、中国深センのフォックスコンの工場やiPhoneの部品が売られているブラックマーケットに潜入したりと、多角的な取材を敢行しており読み応えがある。登場が早すぎたIBM Simon Personal Communicatorの名前が出てくるのも嬉しい。秘密主義が徹底しているAppleだが、よくここまで取材したと感心する。お薦めの1冊である。
好奇心旺盛な雑誌記者らしい視点は悪くない。本書のカバー範囲は広く、ARMチップ、マルチタッチのユーザインタフェース、タッチスクリーン、ゴリラガラス、カメラの手ぶれ補正、センサー類(加速度、近接、磁気、GPS)について、それぞれ1章を割く。手ぶれ補正技術の開発者として日本人が登場する。Apple社内の話でスティーブ・ジョブズの個性が光るのは当然だが、その他の登場人物もなかなか味がある。
凄いのはフォックスコンの工場に潜入したレポートだ。セキュリティが厳重な工場に潜り込んだ経緯や想像を絶する内部の実態を明らかにする。フォックスコン・シティと呼ばれる工場のスケールは凄まじい。Appleのピラミッド型組織と幹部層の実態を垣間見せているのも本書の特徴である。Appleもジョブズを除けば普通の会社であることが分かる。ジョブズ亡き後のAppleが、影響力が衰え、普通の大きな会社になるのも遠くないかもしれない。
書籍情報
ザ・ワン・デバイス〜iPhoneという奇跡の“生態系"はいかに誕生したか〜
ブライアン・マーチャント、倉田幸信・訳、ダイヤモンド社、p.428、¥2200