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横田英史の読書コーナー

中国 人口減少の真実

村山宏、日経プレミアシリーズ

2020.2.10  12:34 pm

 人口の観点から中国を分析した書。1980年から2016年まで続いて「一人っ子政策」がどのような影響を社会・経済・政治に及ぼしているかを明らかにする。知っているようで知らない中国の内情がうかがえる。例えば一人っ子政策は少数民族には適用されなかったため、マイノリティの比率が高まっていることは寡聞にしてしらなかった。中国に関心のある方々にお薦めだ。

 筆者は一人っ子政策による負の面を明らかにする。中国の人口が2020年代にピークを打ち、人口ボーナスは2030年代には消滅する。個人の在り方や国家の在り方が大きく変わる。日経新聞の編集員である筆者は、肥満児の急増、恋人レンタル、結婚をしない若者、大量の戸籍のない子どもたち、巨額の教育費・医療費、破綻する社会保障、行き詰まる徴兵制、労働力の減少といった話題を次々に取り上げる。目の付け所は新聞記者らしく秀抜である。

 中国の問題は、豊かになる前に少子高齢化社会に突入する点である。いわゆる未豊先老となる。日本から30年遅れであるが、日本は豊かになった後に少子高齢化社会に突入しており、社会の安定性の観点からはこの点が大きく異なる。このほか筆者は、世界の人口大国が中国からインドへと移ろうとしているなか、日本が取るべき経済戦略を提示する。国家の盛衰を見るときに着目すべきは、人口の絶対値ではなく「変化率」という筆者の理論も興味深い。

 著者は、中国で自由な取材活動ができないため、中国の新聞・雑誌やインターネットに載った記事を使い記事を構成している。自らの仮説に都合の良い記事をピックアップしている懸念は残るが、それを含めても読み応え十分である。

書籍情報

中国 人口減少の真実

村山宏、日経プレミアシリーズ、p.292、¥1012

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。