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横田英史の読書コーナー

タテ社会と現代日本

中根千枝、現代新書編集部・構成、講談社現代新書

2020.2.24  1:05 pm

 御年93歳の中根千枝へのインタビューを講談社の現代新書編集部がまとめた書。中根らしい視点で、長時間労働、非正規労働、天下り、いじめ、家庭での虐待など、日本が抱える社会問題を論じる。長時間労働につながる小集団の封鎖性、非正規・正規雇用問題の裏にある「ステイタス・コンシャス」、タテ社会における女性の社会進出の難しさなど、切れ味鋭い分析はさすがである。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」で、坊主と袈裟を分離できないことが日本社内の致命的問題とする。日本の社会問題を考える上で一読の価値のある書である。

 日本社会では個々の属性(資格)よりも場の優先度が高く、人間関係の強弱が重視される。結果として、仲間同士の接触の長さが重要になり、新参者へのいじめや専門家のステータスの低さに繋がっているとする。人間関係にエモーショナルな要素が強いため、他の社会に見られないような感情の消費や神経の発声するという指摘は的確だ。

 本書で嬉しいのは「タテ社会の人間関係」(1967年刊)の元になった中央公論の論文「日本的社会構造の発見」(1964年)が巻末に掲載されていること。55年以上も前の論考とは思えないほど、現在の日本社会に当てはまる。筆者は、トップが独裁的な強さを発揮できない仕組みがシステム的に出来上がっていると語る。

書籍情報

タテ社会と現代日本

中根千枝、現代新書編集部・構成、講談社現代新書、p.200、¥880

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。