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横田英史の読書コーナー

QRコードの奇跡〜モノづくり集団の発想転換が革新を生んだ〜

小川進、 東洋経済新報社

2020.3.15  1:36 pm

 QR(Quick Response)コードの開発物語。開発したデンソーの技術者をはじめとした関係者に丹念に取材した労作である。前身のトヨタ生産方式の「かんばん」向けバーコードに始まり、誕生のキッカケ、パブリックドメインにした経緯、国際標準化の取り組み、進化、QRコード先進国の中国の状況など、裏話を含め興味深いトッピクスが満載されている。充実しているのはアプリケーション拡大の過程。セブン-イレブンのPOSや検品、単品管理での利用、ANAのチケットレス・サービス、鉄道のホームドアなどについて詳述する。

 説明不足の部分が散見され、話が飛ぶ傾向があるのが残念だが、内容の充実度はそれを補ってあまりある。身近な存在だが、意外と知らないQRコードの話が次から次へと登場する。筆者は神戸大学大学院教授で、研究領域はイノベーションや経営学。経営者や上司の度量、国際標準化についての逸話もあり、技術者だけでなく経営に携わる方々にも読んでほしい良書である。

 本書が優れているのは、忖度なしで書かれているところだろう。例えば、QRコードに対するトヨタの生産管理部門からの抵抗(流通管理部門は推進派)、国際標準化にあたってメンツを潰される格好になった工業技術院からの横槍にも切り込む。国際標準化に際しての苦労話では、米国の反対を押さえるために行った工夫や資金面にも言及している。

書籍情報

QRコードの奇跡〜モノづくり集団の発想転換が革新を生んだ〜

小川進、 東洋経済新報社、p.216、¥1980

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。