横田英史の読書コーナー
危機と人類(下)
ジャレド・ダイアモンド、小川敏子・訳、川上純子・訳、日本経済新聞出版
2020.5.10 5:49 pm
世界7か国が危機をどのように克服したかを分析した書の下巻。個人的な危機を克服する12の方策と比べながら国家の危機管理を分析する。12の要因とは、危機に陥っていると認めること、行動を起こすのは自分であるという責任の受容、性格の柔軟性などだ。下巻はオーストラリア、日本、ドイツ、米国を取り上げ、最後に今後の世界を待ち受ける危機について論じる。「新種の伝染病」についても、少しだけだが触れているのはさすがである。
下巻における日本への視線は、明治維新を扱った上巻に比べきわめて厳しい。第2次世界大戦の不都合な事実に日本は正対せず、多くの問題を未解決のまま引きずっている。辛くとも過去に対峙し自らを裁いたドイツに比べて彼我の差は大きい。さらに人口減少や高齢化といった問題にも正対しておらず、今の時代に合わなくなった伝統的価値観にとらわれている。日本は公正で現実的な自国認識が欠けていると警鐘を鳴らす。
政治的な妥協が加速度的に衰退した米国の不寛容や社会の二極化に対しても手厳しく断罪する。歪んだ政治、議員の劣化、暴力的な言動、他の国を手本に学ぶ姿勢に欠けるなど、米国の抱える問題は重い。歴史から学ぶことの多い書だが、著者らしい世界を俯瞰したスケールの大きい論説に少々欠けるのは残念である。
書籍情報
危機と人類(下)
ジャレド・ダイアモンド、小川敏子・訳、川上純子・訳、日本経済新聞出版、p.336、¥1980
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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