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横田英史の読書コーナー

生産性~誤解と真実~

森川正之、日本経済新聞出版

2020.7.1  11:35 am

 日本の労働生産性は米国の約3分の2で主要7カ国で最下位など、生産性向上は日本にとって喫緊の課題になっている。本書は生産性をキーワードに日本経済論や経済政策論を展開した書。生産性をめぐる多くの誤解を解くと同時に、生産性を高めるためにとるべき政策をエビデンスに基づいて提言する。筆者は生産性について、イノベーション、人的資本投資、働き方改革(テレワーク)、経営の質、規制改革、グローバル化、地域経済といった多面的な切り口で、データと事実を示しながら論じる。生産性に関する書は多いが、本書は優れものの1冊お薦めである。

 「企業の稼ぐ力を高めることが生産性向上である」「激しい競争下で価格設定を高くできないので日本の生産性は低い」「サービスはタダという消費者の意識がサービス産業の生産性向上を妨げている」「ワークライフバランスの改善が生産性を高める」といった根拠ない通説を、筆者はデータに基づいて論破する。例えば「ワークライフバランスの改善については、労働時間削減の目的として生産性向上や経済成長への貢献を強調するのには無理があるという。

 一方で企業の教育訓練投資や研究開発投資は生産性向上への寄与が大きいことを筆者は明らかにする。このほかハイテク産業では国籍の多様性が生産性に強いプラスの効果に与える一方で、ローテク産業の場合はコミュニケーションのコストが生産性向上の効果と逆に作用するという。本社機能部門が大きいほど生産性が高い、女性取締役や社外取締役と生産性向上と無関係、政策の不確実性は生産性向上にマイナス、など本書には興味深い論考が少なくない。

書籍情報

生産性~誤解と真実~

森川正之、日本経済新聞出版、p.316、¥3300

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。