横田英史の読書コーナー
コロナ危機の経済学〜提言と分析〜
小林慶一郎、森川正之・編著、日経BP
2020.8.1 12:40 pm
新型コロナ禍を経済学の観点からどのように捉え、ウイズコロナに向けてどのように対応するべきかについて俯瞰的な視野から論じた書。本書が提示する「あるべき日本経済の姿」に辿り着くのは容易ではないが、新型コロナ禍を奇貨にして前に進むべきなのだろう。本書がマクロ経済学、医療経済学、労働経済学、ファイナンス、行動経済学、国際経済学など間口を大きく取り、いま考えるべき論点を多角的に整理している点は評価できる。おすすめの1冊である。
筆者らの提言は多様である。日本の社会や政治、経済が以前から抱え、先延ばしを続けてきた問題が新型コロナ禍によって一挙に顕在化したことがよく分かる。例えば日本の雇用保険制度や医療制度は欠陥を抱えていることを明らかにし、処方箋を書く。財政については、負の所得税やベーシックインカム、財産税などを俎上に載せる。新型コロナの検査と追跡と待機は医療行為であるとともに、経済政策であり景気政策だと断じる点も評価できる。
本書は大きく2部で構成する。前半では経済政策、制度変更、セーフティネット、財政、グローバル化、食料安全保障、医療の観点から、「どのような政策が必要か」について論じる。後半は、対コロナウイルスの基本戦略、創薬、POSデータに見る消費動向、子供への影響、企業業績・倒産、働き方、都市の在り方などを切り口に、「コロナ危機で経済、企業、個人はどう変わるか」について分析を加える。コロナ後の経済社会のビジョンや「ポストコロナ八策」など、政策志向の強い研究者による提言の数々は刮目に値する。
書籍情報
コロナ危機の経済学〜提言と分析〜
小林慶一郎、森川正之・編著、日経BP、p.384、¥2750
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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